救急救命士の仰天現場 パラメディック119~すべては救命のために~

パラメディック119~すべては救命のために~
救急救命士の仰天現場報告 case13

パラメディック119仰天現場認知症のおじいちゃん7ヶ月もどうしたいたんだろう? up data 2008.2.4

認知症のおじいちゃん
7ヶ月もどうしていたんだろう?

 高齢化社会が進む中、私たち救急隊が扱う事案もかなりの頻度でお年寄りであることが多いです。人間年をとれば病気のひとつやふたつと付き合うもので、そういうものなのでしょう。今回の事案はそれでもさすがにかなり仰天でした。「救急出場、○町路上、高齢男性は意識あるも倒れているとの事」との指令に私たち救急隊が出場しました。まだ日がかんかんと照り注ぐ真昼間でした。

 現場到着
 現場はかなりの人ごみで救急車のサイレンが聞こえたのでしょう。倒れているお年寄りの周りには数十名の人ごみができており数名の方が現場に向かう私たちに手を振っていました。

 傷病者接触
救急隊長「救急隊です、患者さんはそちらの方ですね?」
通行人「そうです、ここで倒れていたから通報しました」
通報してくれたのは通行人の男性、周りにいる人たちもみんなたまたまここに通りかかった方で誰もこのお年寄りを知らないとのことでした。傷病者はお年寄りの男性で額に出血がありましたがほぼ止まっておりかすり傷でした。
救急隊長「こんにちは、救急隊ですよ、分かりますか?」
傷病者「ええ、救急車ね」
救急隊長「そうです、救急隊です。どうされましたか?」
傷病者「ええ、今日はとてもいい天気でね」
救急隊長「おでこにお怪我をしていますよ、旦那さん?どうしたの?」
傷病者「ええ、電話をかけたんですよ」
救急隊長「…。とりあえず車内収容しようか」
救急隊員「隊長、準備できていますよ」
救急隊員と救急機関員とでメインストレッチャーは準備済みでした。

 車内収容
救急隊長「旦那さん?どうしちゃったの?なんでここに倒れていたの?」
傷病者「行こうと思ったんだ」
救急隊長「どこに?」
傷病者「ええ、どこにだろうね」
救急隊長「…」
この高齢の男性、恐らく認知症があります。先ほどから会話が成立しないのです。明らかな外傷は額の擦過傷だけでした。
救急隊長「警察官を要請しようか、このままじゃこのおじいちゃんどこの人か分からないよ」
救急機関員「了解」
救急機関員が本部に連絡を入れて警察官を現場に要請する。
救急隊長「おじいさんはどこに方ですか?お名前言えますか?」
傷病者「ええ、いい天気ですね」
救急隊長「そうじゃなくて名前と生年月日を教えて下さい」
傷病者「帰りたいんだけどね」
会話が成立しません。それでも根気良くいろいろ聞いていくと名前は分からないのですが、いくつかの住所を言うのでした。
救急隊長「K市の○丁目…、それからG町、それからT町、ちょっと調べてみてくれる」
救急隊員「了解、地図とカーナビを使ってみます」
病院を選定するにもどこのだれだか分からない、年齢も何にも分からない人を診てくれる病院なんてそう簡単には決まりません。救急隊長は根気良くこのおじいちゃんと話をして、救急隊員、救急機関員はこのおじいちゃんが言うホントかウソか分からない情報の裏を取っていました。
救急機関員「あった!あったよK市の○丁目の住所」
救急隊員「こっちもあった!G町の住所」
おじいちゃんの言う3つの住所はどれも実在する住所でした。
救急隊長「おじいちゃん、この住所に住んでいたの?今も住んでいるのかい?」
傷病者「そうだなぁきっとそうだな」
そうこうしているうちに警察官が到着しました。

 警察官到着
救急隊長「すみませんね、おまわりさん、こちらの方なんですよ」
警察官「こんにちは、おじいさん、どうしたんですか?」
傷病者「いえね、とってもいい天気でね」
警察官「…」
これまでの経過を救急隊長が説明する。
警察官「おじいさん、ちょっとごめんね、ちょっと身の回りのものを調べさせてもらうからね」
救急隊ではできないおじいさんの身の回りのものを警察官は調べ始めました。まあそうしてほしくて警察官を要請したと言うのもあるのですが。
警察官「あれ?おじいさんシャツの裏に名前が書いているじゃない?あなたJさん?Jさんて言うの?」
傷病者「なんだろうね?」
小さな子どもでもなければなかなか自分の服に名前なんて書かないものです。それでも認知症のある、特に徘徊してしまうお年寄りの場合、服や持ち物に名前や連絡先が書いていることがあります。
救急隊長「さっきの住所、Jさんて家かどうか調べられないかな?」
先ほどおじいさんが言った住所にJと言う姓の家がないか警察に調べてもらうようお願いしました。
救急隊長「どれかに家族が住んでいればいいんですけどね」
警察官「そうですね」
救急隊長「額に怪我をしているしおまわりさんも保護って訳にはいきませんよね?」
警察官「そうですね、まずは治療しないと」
救急隊長「事情を説明して病院を探そうか、おまわりさんも診察後なら大丈夫でしょ」
警察官「ええ、まず怪我の状況を診てもらって大丈夫なら、おじいちゃんの自宅を探してあげないといけないですからね」
これまでの経過、診察後に手当てを済ませた後には警察官が保護し、自宅を探してくれる確約を取った上で病院を選定しました。

 病院選定
救急隊員「…と言う状況なんですよ」
看護師「それは困ったわね」
救急隊員「看護師さん、外傷は額の擦過傷だけです。医師に診察してもらわなければなんとも言えませんが恐らく傷の手当てだけで問題ないと思うんですよね、現場には警察官も入っていますからどうにか診てもらえませんかね?」
看護師「分かりました、先生が診ると言っていますからどうぞ」
救急隊員「良かった助かりました、すぐに到着できますからお願いします」

 病院到着
傷病者は「前額部 擦過傷」もちろん入院を要するような怪我でじゃありませんでした。医師の診察も終わり入院の必要なし、帰って良いとなってもこの人がどこの方なのか、どこに帰るべきなのかも分かりません。そんなところに警察官がやってきました。
警察官「分かりましたよ、この方の住所、G町の方でした、捜索願が出ている方でしたよ」
看護師さん「あら良かった!Jさん良かったわね」
警察官「Jさん、治療も終わったしひとまず警察署に行こうか?ご家族が迎えに来てくれるみたいだから、ね?」
傷病者Jさん「行こうかね~」
救急隊長「G町ってずいぶん遠いですね、Jさんはどうやってここまで来たんでしょうね?」
警察官「さあ?お金も持っていないみたいだし…、しかもね、捜索願が出ているのって7ヶ月前なんですよ。今までどうしていたんでしょうね?」
救急隊長「ええ!7ヶ月前!?…。」

 帰署途上
救急隊長「あの人この7ヶ月もの間どうしていたんだろう??」
救急隊員「身なりだって綺麗にしていたし、7ヶ月間も家に帰らず彷徨っていたって訳ないですよね?」
救急機関員「絶対ないよそれは、服だって洗濯してあるみたいだったし、靴だって綺麗だった。どこかで誰かが世話したのかな?」
警察官に申し送った私たち救急隊にはJさんのこれまでを知る術はありません。7ヶ月、認知症のおじいちゃんはいったいどうしてきたのでしょうか??

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